クラシック音楽の演奏会中、どんなに準備を重ねても起こりうるのが、演奏中のトラブル。
特に弦楽器の弦が切れてしまうアクシデントは、決して珍しいことではありません。
そんなときに見られる、オーケストラならではの連携プレーが「バイオリンリレー」です。

演奏への影響を最小限にすることが大切。
記事を参考に、万が一の場合の対処法を、パートで確認してください。
バイオリンリレーとは
バイオリンリレーとは、演奏中に弦が切れてしまった奏者が、他の奏者からヴァイオリンを受け取って演奏を続ける行為です。
バトンを渡すように、故障した楽器が舞台後方に向けて次々と手渡され、演奏の流れを止めることなく対処されます。

異変に気付けるように目と耳は広く使おう
弦が切れた時の対応
合奏中(練習中)
同じプルトの人に静かに一声かけて、手持ちの予備弦と交換します。
練習の邪魔にならないよう、席から離れた場所で張り替えるとよいでしょう。
チューニングをしたら、楽章の切れ間や演奏が止まっている間に自席に戻ります。最後方のプルトが空いていれば一旦そこで弾くのも良いです。
張り替え直後はチューニングが安定しないので、こまめに確認しましょう。

プルトについてはこちらの記事でまとめたよ!
演奏会中
弦が切れたときだけでなく、弓に不具合が生じたときは、その人から後方に向かってバイオリンリレーで楽器を交換していきます。
バイオリンリレーの手順
- 演奏を止めないことが最重要、大きなリアクションや声はNG。
- 弦が切れた人が表(OUT)なら裏(IN)と楽器を交換し、裏(IN)が切れた場合はそのまま手順③へ。
その際、肩当てを外し弓も交換せず持っておく。 - 楽器を後方の裏(IN)の人と交換する。交換を繰り返し最後列まで故障楽器をリレーする。
- 交響曲や組曲(切れ間のある曲)の場合:
最後列の裏(IN)まで楽器が届いたら、速やかに舞台袖へ下がり予備弦を張り替え、チューニングを済ませる。
➢ 交響曲や組曲でも最終楽章であれば、そのまま自席で可能な限りの演奏をする*。
序曲(切れ間のない曲、短い曲)の場合:
最後列の裏(IN)まで楽器が届いたら、そのまま自席で可能な限りの演奏をする*。
*:舞台袖に下がって予備弦を張り替えても、舞台に戻るタイミングがないため
(曲中の再入場は基本的にしない。) - 演奏の切れ間が来るまで舞台袖で待機する。
ステージマネージャーが扉を開けてキューを出してくれたタイミングで、素早く静かに自席に戻る。 - 逆の手順で楽器を元の持ち主に戻していく。
舞台上に予備楽器の準備がある場合は、最後列の人が予備楽器と交換する。
ソリストやコンサートマスターなど主要な奏者の楽器が故障した場合、予備楽器を戻すかどうかは事前に確認しておく。

楽器の質によるからね
弓が故障したら?
25年間で経験はありませんが、楽器本体と同じリレーが行われます。
弓は複数本ケースに入れておくことも多いので、自分の予備弓と交換します。
こちらの動画では、0:18で「バキッ」という音とともに、弓が壊れてしまっています。
(Stefan JackiwYou公式YouTubeチャンネルから引用)
ヴァイオリン以外の楽器は?
ヴァイオリンと同様に「ビオラリレー」もありますが、サイズの大きなチェロやコントラバスでは楽器本体のリレーは行われません。
故障した楽器の奏者自身が舞台袖に下がります。
事前にパートで確認しておく
- 予備楽器の有無を確認する。ある場合、予備楽器を前に送るかどうかも覚えておく。
- ソリストがいる場合は、より細かに確認する。(ソリストの超高価な楽器の弦を、アマチュアが張り替えても良いのか?など)
- 予備弦を確認する。
- 有事の際、ステージマネージャーが扉を開けてくれるかを確認する。
バイオリンリレーは日本特有
実はこの「バイオリンリレー」、海外のオーケストラではほとんど見られません。
海外では、弦が切れた際にポケットに入れておいた替え弦をその場で交換する、という光景を見かけます。
ソリストやコンサートマスターなど、演奏上で重要な奏者の弦が切れた場合は、演奏への復帰を最優先とするため、すぐ後ろのプルトと楽器を交換することもあります。

こちらの記事では、有名ヴァイオリニスト Ray Chen を例に解説してるよ!
まとめ
バイオリンリレーは一瞬の判断と信頼で成り立っています。
演奏中、視線ひとつで意思を伝え、迷いなく楽器を差し出す後列の奏者。何事もなかったかのように演奏を続ける前列の奏者。そのすべてが一つの音楽を守るために行われています。

リレーに気が付かないお客様がいたら、大成功!